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農泊(グリーンツーリズム)の現状と課題とは?地方創成を有利に進めるためのヒント
農林水産省によると、農山漁村における高齢化・人口減少は、都市に約20年先駆けて進行するとされています。起死回生の一手として注目されている農泊(グリーンツーリズム)ですが、思うように成果を上げることができずに悩んでいる自治体は多いのではないでしょうか。
まずは現段階における農泊の現状を整理し、グリーンツーリズムを成功に導くための課題を把握しましょう。この記事では多くの自治体が抱えている具体的な課題を紹介するとともに、今後の展望についても詳しく紹介します。
今日に至るまでの都市農村交流の取り組み
平成4年の「新しい食料・農業・農村政策の方向」において、はじめて「グリーンツーリズムの復興」が明記されて以降、日本国内で様々な法律が施行されました。
平成6年に「農村漁村滞在型余暇活動のための基盤整備に関する法律」が成立すると、平成15年には農村漁業体験民宿の規制緩和が決定。より積極的な都市農村交流を行うための後押しが国によって行われることとなりました。
平成30年には、農泊推進対策による「農村漁村振興交付金」の交付も決まっています。インバウンドを含む観光客を呼び込み、地域活性化を図るための政策を加速できる制度として、既にいくつもの自治体が交付金を活用した地域再生に取り組んでいます。
農泊を活用して地域活性化を成功させた兵庫県篠山市の例
兵庫県篠山市にある丸山集落は、2008年時点で12ある集落のうち、半数以上の7軒が空き家となって消滅の危機に瀕していました。この状況を脱するためにワークショップを頻繁に実施し、古民家再生の資金を確保。それを元手に使い、集落の暮らしを体験できる農泊をスタートさせました。
空き家のうち古民家2軒を使用した農泊に加え、地産の食材を使ったレストランの運営などにより、平成28年度の農泊体験者数は669人という大成功を収めています。現在は給付金の活用も可能になっていることから、同等の成功例を納められる可能性はさらに高まっています。
すべての自治体が着目すべき農泊の課題
丸山集落のように成功を収めている自治体がある一方で、大半の自治体が現在も多くの課題に苛まれ、地域のポテンシャルを生かし切ることができていません。農泊の課題にはどのようなものがあるのか、解決策と合わせてこれから詳しく紹介します。
産業を持続させるためには推進組織の整備が必要
従来までの地域の目標は「生きがいづくり」に重点が置かれていました。しかし、この取り組みは既存住民のQOLを高める効果を見込めるものの、世代を超えた産業に繋げにくいという課題があります。交流人口の増加や所得の確保を目指す上での課題は、持続的な産業を興すことになります。
そのための資金として、これまでは公費に依存する自治体が多く、責任が不明確な任意協議会に運営を任せる自治体が大半を占めていました。今後は自立的な運営を基盤とするために、法人格を持つ推進組織を立てることが最良の選択肢です。
先述した丸山集落においても「NPO法人集落丸山」を発足させたことが成功に決め手になっています。NPO法人集落丸山は、一般社団法人ノオトと連携することによって新たなビジネスモデルを確立し、これまでになかった革新的なアイデアを取り入れて復興を果たすことに成功しています。
食事をはじめとする体験型コンテンツの提供も必須
農泊という性質上、宿泊施設の整備が重要であることは確かですが、それに加えて体験型コンテンツの提供も必須といえます。訪れた人が地域の魅力を感じるためには、宿泊施設に魅力を持たせるだけでは不十分で、その場でしか体験できない出来事をセットにすることがリピーターの確保にもつながります。
第一に候補にできるアイデアとしては、レストランのような食に関する施設の増強が効果的です。地域に既存のレストランがある場合は相乗効果を見込めることもメリットになります。郷土料理の提供による文化の発信や、地産地消の促進を狙えることもポイントです。
ここまでに例として取り上げてきた丸山集落も、レストランに力を入れた自治体の1つです。空き家になっていた物件をレストランとして活用し、著名なシェフを招いてフランス料理を提供しています。ここでは地元のジビエを使った料理をメインに据えて、ここでしか食べられない味を生み出しています。
その他にも、サイクリングやトレッキング、収穫体験、着付け体験といった資源を活用できる体験メニューにも勝算があります。工芸品や野菜類、加工食品を販売し、買い物の機会を提供するといった事業に関しても、地域の魅力を引き出すだけのポテンシャルが潜んでいます。
冬季の体験プログラム実施が大きな課題
農業という特性上、困難なことは間違いありませんが、冬季の体験プログラムを効果的に実施できるかどうかが大きな課題として立ちはだかっています。こちらも農林水産省によるデータですが、すべての農業体験プログラムのうち、冬季に実施されているものは全体の12%に過ぎません。
春季から秋季にかけての実施可能プログラムは1,112プログラムであることに対し、冬季に実施可能なプログラムは152プログラムに限定されています。実施例としてはイチゴ狩りや酪農体験が代表的ですが、どの地域でも実施可能な物としても椎茸栽培や炭焼き体験などがあります。
この時期に魅力的なプログラムを提供することができれば、同時期にライバルになる存在が少なく、様々な地域からの来客を見込むことができるでしょう。こういった時期に魅力あるプログラムを作り出すためにも、NPO法人の設立や連携は非常に重要です。
インバウンド対応には言語以外の工夫も必要
インバウンド対応というと言語に対するものが第一に思い浮かびますが、それだけでは不十分です。インフラの整備のほか、生活習慣に対する理解、宗教観を重んじることなども重要なポイントになります。これらへの配慮や工夫も、インバウンド対応の基本です。
特にイスラム教への対応として、食事への理解を深めることは大切です。全くの非対応を続けてしまうと、それだけで大きなマーケットを失ってしまうことになります。言語への対応と合わせて、宗教にも対応していることを強く発信することも、農泊を成功させるためのポイントです。
2020年以降の農泊の展望
2020年以降の農泊を成功に導くためには、様々な角度からの魅力向上が必要です。今回紹介したコンテンツの開発と拡大のために中核法人を設立することや、インバウンド対応に向けた準備に対して引き続き注力することが求められます。
農村の持つ地域資源の魅力をさらに押し出すためには、地域を挙げた一体感のある取り組みが必須になります。宿泊、農業、食事、買い物といった分野をすべて1人でカバーすることは不可能であり、横の繋がりを重視しながら、専門家による意見を積極的に取り入れる姿勢を持つことが勝ち組への道になります。
まとめ
第一に、取り組みを持続させるための工夫が各自治体には求められています。農泊の柱となるのは宿泊事業ですが、それに付帯する食事や買い物といった体験型コンテンツの提供により、他の自治体との差別化を図ることができます。
2020年以降の農泊を成功させるためには、横の繋がりを重要視して、専門家による意見を取り入れることがポイントになります。効果的に魅力を伝えることができれば、自治体の規模の大小は成功に関係しません。成功例も参考にしながら、地域一丸となった対応を目指しましょう。
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